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大津地方裁判所 平成8年(行ウ)2号 判決 1999年12月13日

原告

奥村信夫

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

吉原稔

被告

西岡種夫

右訴訟代理人弁護士

中村誠

被告

日本精工株式会社

右代表者代表取締役

関谷哲夫

右訴訟代理人弁護士

竹上英夫

主文

一  被告らは、石部町に対し、各自金八〇万九二八〇円及びこれに対する平成八年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、石部町に対し、各自三九二七万四九六〇円及び右に対する内金八八七万四九六〇円については平成五年二月一日より、内金四八〇万円については平成六年一月一日より、内金四八〇万円については平成七年一月一日より、内金四八〇万円については平成八年一月一日より、内金四〇万円については平成八年二月一日より、内金一五六〇万円については平成一一年六月一八日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、滋賀県甲賀郡石部町(以下「石部町」という。)の住民である原告らが「石部町長である被告西岡種夫(以下「被告西岡」という。)が、被告日本精工株式会社(以下「被告会社」という。)から、同社の石部工場(以下「石部工場」という。)の下水道使用料及び下水道事業受益者負担金(以下「受益者負担金」という。)を石部町の条例及び規則に反して過少に賦課ないし徴収してきた。」と主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、石部町に代位して、①被告会社に対しては、右条例及び規則に基づいた適正な下水道使用料及び受益者負担金の支払を悪意で免れたとして民法七〇四条の不当利得返還請求権として、②被告西岡に対しては、石部町長として適正に右条例及び規則を執行して被告会社から下水道使用料及び受益者負担金を徴収する職務上の義務を負いながら、これを怠ったとして民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償請求権として、各自、本来徴収すべき金額と実施に徴収した金額の差額に相当する金員及びこれに対する利息ないし遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実(末尾括弧内に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告らはいずれも石部町の住民である。

(二) 被告西岡は、平成三年五月石部町長に就任し、現在もその職にある。

(三) 被告会社は、ベアリング等を製造する会社であり、石部町大字石部三八一四番地に石部工場を所有している。

2  関係条例及び規則

(一) 石部町下水道使用料条例(平成四年六月二〇日条例第一五号。以下「下水道使用料条例」という。)には、以下のような規定がある(乙一)。

第七条 使用料の額は、使用月において使用者が公共下水道に排除した汚水の量(以下「汚水量」という。)に応じ、別表に定めるところにより算定した額に一〇〇分の一〇三を乗じて得た額とする。但し、円未満については、切り捨てるものとする。

第八条 汚水量の認定は、次の各号に定めるところによる。

(一) 水道水を使用した場合、水道の使用水量とする。

(二) 省略

(三) 現に使用する水量が、汚水量に著しく異なる使用者は、規則で定めるところにより、一使用月の汚水量及びその算定根拠を記載した申告書をその翌月の七日までに町長へ提出し、その場合には、前二号の規定にかかわらず、町長はその申告書の内容を勘案して汚水量を認定する。

別表(第七条関係)

区分

特定排水

基本料金

汚水量

――

料金

――

超過料金

汚水量

一五〇〇立方メートルを超える分

料金

〔一立方メートルにつき〕

二〇〇円

(二) 石部町下水道使用料条例施行規則(平成四年七月一日施行規則第一〇号。以下「下水道使用料規則」という。)には、以下のような規定がある(乙二)。

第七条 条例八条三号の規定により、汚水量を申告するときは、汚水量認定申告書(別記様式第四号)により提出しなければならない。

2  前項の申告書には、申告書に記載した事項を証する書類を添付しなければならない。

3  町長は、第一項の申告により汚水量を認定したときは、汚水量認定通知書(別記様式第五号)により通知する。

(三) 大津湖南都市計画石部町公共下水道事業受益者負担に関する条例(平成四年三月一〇日条例第九号。以下「受益者負担条例」という。)には、以下のような規定がある(乙三)。

第一条 石部町長(以下「町長」という。)は、この条例の定めるところにより、大津湖南都市計画石部町公共下水道事業(以下「事業」という。)に要する費用の一部に充てるため、都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号。以下「法」という。)第七五条の規定に基づく受益者負担金(以下「負担金」という。)を徴収するものとする。

第四条 受益者が負担する負担金の額は、別表に定める一平方メートル当たりの負担金額(以下「単位負担金額」という。)に当該受益者が次号の公告の日現在において所有し、または地上権等を有する土地で、同条の規定により公告された区域内のものの面積を乗じて得た金額とする。

第五条 町長は、毎年度の当初に、当該年度内に事業を施行することを予定し、かつ、負担金を賦課しようとする区域(以下「賦課対象区域」という。)を定め、これを公告しなければならない。

第六条 町長は、前条の公告日現在における当該公告のあった賦課対象区域内の土地に係る受益者ごとに、第四条の規定により算出した負担金を賦課するものとする。

2ないし4 省略

第七条 町長は次の各号の一に該当する場合は、当該受益者の申請に基づき負担金の徴収を猶予することができる。

(1)、(2) 省略

(3) 特に徴収を猶予する必要があると認められるとき

別表(第四条関係)

負担区名

第一負担区

単位負担金額

(一平方メートル当り)

二四〇円

(四) 大津湖南都市計画石部町公共下水道事業受益者負担に関する条例施行規則(平成四年七月一日規則第九号。以下「受益者負担規則」という。)には、以下の規定が存する(乙四)。

第二条 条例第六条一項に規定する受益者負担金(以下「負担金」という。)の算定基準となる土地の地積は公簿による。ただし、これによりがたいとき、または町長が必要と認めたときは、実測によることができる。

別表第二(第一三条関係) 下水道事業受益者負担金徴収猶予基準

徴収猶予

対象受益者

一 公簿上の地目および現況とともに田、畑、山林、雑種地等に係る受益者

徴収猶予期間

宅地化されるまでの期間

徴収猶予額

当該公簿上の地目および現況が田、畑、山林、雑種地等である土地に係る負担金の金額

摘要

(以下省略)

第一三条 条例第七条に規定する負担金の徴収猶予の基準は、別表二に定めるところとし、徴収猶予を受けようとする者は、下水道事業受益者負担金徴収猶予申請書(様式第七号)を町長に提出しなければならない。

2、3 省略

3  石部工場の下水道使用料及び受益者負担金

(一) 石部工場は、石部町が設置・運営する石部町営上水道より、平成五年一月以後、月平均約六〇〇〇立方メートルの水道水の供給を受けてきた。

(二) 石部工場は、平成五年一月以後、排水(工場排水のほか、敷地内の従業員寮等から排出される生活排水を含む。)を、石部町が設置・運営する石部町の公共下水道に排出してきた。

(三) 被告西岡は、平成四年一二月二日、石部工場の排水量を月四二七〇立方メートルと認定し(以下「本件認定」という。)、被告会社に平成四年八月分及び同年九月分の下水道使用料納入通知をし、被告会社は、同年一二月二一日、右納入通知のあった下水道使用料を納入し、以後本件認定に従って下水道使用料を支払ってきた(丙二二)。ただ、石部工場は、汚水量の認定を受けるに際し、下水道使用料条例八条三号、同施行規則六条二項、七条各号所定の手続を履践していない。

(四) 石部工場の面積は、公簿によると、18.53ヘクタールである。

(五) 被告会社は、平成四年七月三一日、石部工場の受益者負担金につき、同工場の敷地のうち六万三一一八平方メートルにつき受益者負担金条例七条、同施行規則一三条に基づき受益者負担金を徴収猶予するよう申請し(丙七の一ないし七)、被告西岡は、同年九月一四日、これを承認した上で(丙六の一ないし五)、受益者負担金を徴収する旨の決定をし(丙八の一ないし五)、被告会社は、それに従い12.22ヘクタール分の受益者負担金を支払ってきた。

(六) 石部工場の男子寮の北側には、公簿上の地目が山林であるのに現況は駐車場として利用されている土地0.3372ヘクタールがあり、右土地については受益者負担金の徴収猶予がなされている。

(七) 被告西岡は、平成四年九月一四日付けで石部工場に対して行った受益者負担金の徴収猶予のうち合計二万一八四五平方メートル分につき、平成八年四月一日、固定資産税評価の見直しにより宅地とすることを理由に取り消した(丙一二の一)。

4  監査請求

原告らは平成八年一月九日、石部町監査委員に対し、本件に関する住民監査請求をした。同監査委員は、同月一九日付けで請求に係る事実の違法性については疎明が乏しいなどとして却下し、原告らに通知した(甲一、二)。

三  原告らの主張

1  下水道使用料について

(一) 石部工場は、平成五年一月以降、石部町の公共下水道に月平均約六〇〇〇立方メートル以上の汚水を現実に排出してきたにもかかわらず、被告西岡は、石部工場の一ケ月の汚水量を四〇〇〇立方メートルと認定し、被告会社からそれに相当する分の下水道使用料しか徴収していない。

したがって、被告会社は、月二〇〇〇立方メートル分の下水道使用料の支払を平成五年一月から平成一一年六月までの間七六ケ月にわたって不当に免れた。その額は、下水道使用条例七条に基づき計算すると三〇四〇万円である(二〇〇円×二〇〇〇立法メートル×七六ケ月=三〇四〇万円)。

(二) 仮に(一)のように認められないとしても、①本件認定は、下水道使用料条例八条三号、同施行規則七条各号所定の手続を履践していないし、②実質的にみても、被告西岡は、石部工場の汚水量を認定するにあたり、クーリングタワーによる蒸発量などを過大に計算し、汚水量を過少に認定したのであるから、本件認定は無効である。

すなわち、①被告西岡は、石部工場の汚水量について、前記のとおり下水道使用条例八条三号に基づいて、これを四二七〇立方メートルと認定し、被告会社はこれに基づいて算定された下水道使用料のみを支払っているところ、被告会社は、同条例八条三号所定の申告書を一度も提出しておらず、石部町も同条例、同施行規則に定める通知をしていないのであるから、右汚水量の認定はその手続に反し無効である。

また、②実質的にみても同条例八条三号によって石部工場の汚水量を算定するには、上水道、井水使用量から、クーリングタワーの稼動による蒸発量を控除することになるが、その算定のためには、クーリングタワーの稼動台数、稼動時間、稼動期間等を確認する必要があるところ、被告会社以外の第三者がそれを確認するのは実際上不可能である。仮に、それを確認することができるとしても、上水道、井水使用量からは、クーリングタワーの稼動による蒸発量のみが控除されるべきで、ボイラー消却炉やベアリング研磨の蒸発量まで控除されるべきでない。また、クリーングタワーの稼動による蒸発水量を算定するにあたっては、純粋の蒸発のみを考えるべきでキャリーオーバー(水滴損失)やブローダウンによる補給水量は考慮すべきではないから、係数として0.83パーセントを用い、循環水量(クリーングタワーの能力RT×一三リットル/分)を基準とし、クーリングタワーの稼動日数については二一日とすべきである。

しかしながら、被告西岡は、被告会社が提出した資料を鵜呑みにして、キャリーオーバーやブローダウンによる補給水量を考慮して1.5パーセントの係数を用い、ポンプ能力を基準とし、稼動日数についても夏のみに使用する分については30.4日、夏冬ともに使用する分は21.3日として蒸発水量を算定した上、更にボイラー焼却炉やベアリング研磨の蒸発量を控除したのであるから、右汚水量の認定は実質的に不合理なもので無効である。

そうすると、汚水量の認定は、本来下水道使用料条例八条一号によるべきであったのであり、石部工場は、平成五年一月以降、少なくとも石部町の上水道から月平均約六〇〇〇立方メートルの水を使用してきたのであるから、それに相当する分を汚水量として認定され、それに基づいた下水道使用料の支払をすべきであったことになる。それにもかかわらず、被告西岡は、石部工場の汚水量を四〇〇〇立方メートルと認定したのであるから、被告会社は、その差である二〇〇〇立方メートル分の下水道使用料につき、平成五年一月から平成一一年六月までの間、その支払を不当に免れた。その額は三〇四〇万円である。

2  受益者負担金について

石部工場の実測面積は、二五〇〇分の一の地図により計測することが可能であり、それによると二〇万九九九〇平方メートルであるのに対し、公簿面積は、厳密には18万4656.30平方メートルであり、両者は著しく異なるので、受益者負担規則二条但書にいう「公簿によりがたいとき」に該当し、受益者負担金は実測面積を基準に賦課すべきであった。右実測面積のうち、被告西岡が被告会社から石部工場の受益者負担金を徴収しているのは一四万平方メートル分についてであるから、その差である六万九九九〇平方メートル分につき徴収猶予をしていることになる。

また、受益者負担条例七条により受益者負担金の徴収猶予を受けるには、受益者負担規則一三条、別表第二により、その対象地の公簿上の地目及び現況がともに山林であることが必要であるところ、右猶予面積のうち、公簿上の地目及び現況がともに山林である部分の面積は、三万六九二一平方メートルにすぎないから、被告会社は、石部工場について、その差である三万三〇六九平方メートル分の受益者負担金の徴収を不当に猶予され、その支払を免れていることになる。その額は、受益者負担条例四条に基づき計算すると、七九三万六五六〇円である(二四〇円×三万三〇六九平方メートル=七九三万六五六〇円)。(なお、この点、原告らは一九九九年(平成一一年)六月一八日付け準備書面一七頁において原告ら主張の実測面積と公簿画積の差を「六万九九〇〇平方メートル分」とし、被告会社が不当に徴収猶予を受けた面積をする「三万二九七九平方メートル」として、被告会社の利得を「七九一万四九六〇円」と算定するが、明らかに計算違いであると認められる。)

なお、二万平方メートル分については、前記のとおり平成八年になって初めて徴収猶予が取り消されたが、本来は平成五年から支払われるべきものであったので、その間年五分を割合による遅延損害金として九六万円が生じることになる。

四  被告西岡の主張

1  下水道使用料について

(一) 原告らの主張1(一)に対して

石部工場は、平成五年一月以降、石部町の公共下水道に月平均約六〇〇〇立方メートル以上の汚水を排出しておらず、被告会社に不当な利得はなく、石部町にも損害はないから、被告西岡に何ら不法行為責任は生じない。

(二) 原告らの主張1(二)に対して

汚水量認定について下水道使用料規則所定の認定通知書を送付しなかったのは、平成四年一二月当時、右規則が施行された直後であったので、右規則に基づく手続書類が完備できていなかったため、口頭で認定通知をしたのである。また、同条例八条三号は通常月と異なる一定月に限った使用量の変動がある場合を想定して、月ごとの申請を必要としているのであるから、本件では一々その手続を履践する必要はない。

被告西岡は、石部工場が、水道水と地下水をともに営業用に使っているが、当時の機械設備の性質上、クーリングタワーの蒸発等により相当量の水が気化して、下水道には流れないことが被告会社の資料によって明らかになったので、下水道使用料条例八条三号、下水道使用料規則六条一項四号に基づき、同工場の冬期・夏期の上水道使用水量等を考慮した上で蒸発量を控除し、本件認定を行ったのである。

したがって、本件認定は手続的にも内容的にも適正であるから、被告会社に不当な利得はなく、石部町にも損失・損害はないから、被告西岡に何ら不法行為責任は生じない。

2  受益者負担金について(原告らの主張2について)

被告西岡が、石部工場に対し、公簿面積を基準に受益者負担金を賦課したのは、受益者負担規則二条本文が原則として公簿によるとすることに加え、実質的にも固定資産税の徴収などと同様に、賦課の統一性及び公平性を担保するものとして最も適正で技術的にも可能であると考えられたからである。

石部工場には、前記第二の一3(六)のとおり、公簿上の地目が山林であるのに現況は駐車場として利用されている土地があるが、これは行政手続上駐車場にする場合には開発申請を必要とする土地であり、いまだ開発許可は下りていない。したがって、右土地につき受益者負担金の徴収を猶予しないとすると、開発許可のない開発行為を追認する結果となるので、現段階では、受益者負担規則一三条の適用上公簿上の地目どおり山林として扱ったのである。

したがって、被告西岡の被告会社に対する徴収猶予は適法であって被告会社に不当な利得はなく、石部町にも損害がないから、被告西岡に何ら不法行為責任は生じない。

五  被告会社の主張

1  下水道使用料について

(一) 原告らの主張1(一)に対して

石部工場は、平成五年一月以降、石部町の公共下水道に月平均約六〇〇〇立方メートル以上の汚水を排出しておらず、被告会社に不当な利得はない。

(二) 原告らの主張1(二)について

被告会社は、石部工場の汚水量の認定に関し、下水道使用料条例及び同施行規則が施行される前から、石部町と折衝してきたのであり、右条例等施行後も、特に町から右条例等に基づく申請書類等を提出するよう指導、指示を受けたことはなく、汚水量認定通知書なる書面も受領したことはなく、汚水量の認定については、口頭で通告を受けただけである。被告会社は、年間通じての使用水量並びに汚水量及びその算定根拠を示す資料を石部町に提出したので、毎月手続をする必要はなかった。石部町から申請書類の提出の指導、指示もなく、口頭で汚水量を月四二七〇立方メートルとし、二、三年又は設備上大きな変化があった時点で見直すことにする旨通告があり、かつ、以後右認定に基づく下水道使用納入通知が発せられていただけである。

石部工場においては、使用水量の多くが冷却塔蒸発により気化してしまうほか、研削液の補給として循環利用されるため、それを明らかにする資料を提出の上、石部町と審議検討した結果、下水道使用料条例八条三号に基づき、同町から汚水量を月四二七〇立方メートルとする旨の認定を受けたものである。

したがって、いずれにしても本件認定は適法なものであって、被告会社に不当な利得はない。

2  受益者負担金について(原告らの主張2について)

受益者負担規則二条は、受益者負担金の算定基準となる土地の地積は公簿によるものとし、例外としてそれによりがたいとき又は町長が必要と認めたときは実測によることができるとしており、実測によるか否かは町長の裁量に任されており、本件において裁量権の逸脱はない。被告会社は、町長から同条により公簿面積に基づき認定を受け、負担金を支払ってきた。

石部工場の敷地内にある駐車場部分の土地は、行政手続上駐車場にする場合には開発申請を必要とする土地であり、現在滋賀県に対し、滋賀県土地利用に関する指導要綱により、開発事業計画等の届出をしているが、いまだその許可が下りていないので、受益者負担規則一三条の適用上も公簿上の地目どおり山林として扱われるべきである。現況が山林でないにもかかわらず、受益者負担金の猶予を受けている土地は、右駐車場部分の土地以外にない。

したがって、被告西岡の被告会社に対する徴収猶予は適法であって、被告会社に不当な利得はない。

第三  当裁判所の判断

一  下水道使用料について

1  原告らの主張1(一)について

原告らは、被告会社の石部工場の平成五年一月以降の汚水量が月六〇〇〇立方メートルである旨主張する。

しかしながら、前記第二の一3(一)及び(二)のとおり、石部工場は、石部町が設置・運営する石部町営上水道より、平成五年一月以後、石部町営上水道から月平均約六〇〇〇立方メートルの水道水の供給を受けてきたこと、石部工場は、平成五年一月以後、排水(工場排水のほか、敷地内の従業員寮等から排出される生活排水を含む。)を、石部町が設置・運営する石部町の公共下水道に排出してきたことが認められることに加え、証拠(丙九の二、六)及び弁論の全趣旨によれば、石部工場は、平成五年一月以後、水道水以外に毎月四〇〇〇立方メートル程度の地下水を使用してきたことが認められるが、他方、証拠(丙九の一ないし五、丙一〇の一ないし四、丙二〇、丙二二、証人清水、同西川)によれば、石部工場ではクーリングタワーからの蒸発量が相当量あり、その使用水量と汚水量には大きな差があると考えられること、被告会社では、平成八年二月九日に石部工場の下水道排出口に、汚水量の計測装置を設置しており、同装置による同月から現在までの毎月の汚水量の計測結果は概ね四二七〇立方メートル前後で推移していることが認められ、これらの事実に照らすと、前記事実から石部工場の平成五年一月以降の汚水量が月六〇〇〇立方メートルであったと推認することはできないというべきである。

なお、原告らは、石部工場から直径二五〇m/mの下水を排水するパイプが直接工場敷地外に排出されている部分の排水を分析したところ、これらには水道水に含まれる塩素イオンが含まれていることが明らかになり、このパイプには上水道水を水源とする工場排水が流入しており、純粋な雨水でないことが判明したとして、これを論拠に被告会社が石部工場の排水の一部を下水道に流さず、直接公共河川に放流している旨主張し、原告奥村本人もこれに沿う供述をする。しかしながら、被告工場においては、雨水の流出系統は三つあり、三つの排水路から公共の側溝に流れていくようになっており、その一つには大量に降った雨水を一時的に貯めておく遊水池を設けていること、石部工場では、クーリングタワーの冷却水や池の噴水が溢れたり、道路に散水したり、焼却灰に水を流したりしたときに使用された水道水、あるいは稲荷などの手洗水として使用された水道水が雨水排水経路に流れ込む可能性があり、その場合には、原告らが排水を採取したとする部分において、水道水に含まれる塩素イオンが含まれることもあり得ること(以上、丙二四、証人清水、同西川)に照らせば、原告奥村本人の右供述からは、直ちに原告ら主張にかかる前記事実を認めることができない。

2  原告らの主張1(二)について

被告会社が、石部町から石部工場の汚水量の認定を受けるに際し、下水道使用料条例八条三号、同施行規則六条二項、七条各号所定の手履践していないことについては当事者間に争いがない。

原告らは、本件認定が、下水道使用料条例八条三号、同施行規則七条各号所定の手続を履践していないこと及び被告西岡が、本件認定に際し、クーリングタワーによる蒸発量などを過大に計算することで、汚水量を過少に認定したものであり、本件認定は無効であるから、本来、被告会社には下水道使用料条例八条一号により認定された六〇〇〇平方メートルの汚水量に対応する使用料の支払義務があると主張する。

しかしながら、仮に、本件において原告らが主張するように本件認定が無効であるとしても、証拠(丙九の一ないし五、丙一〇の一ないし四、証人清水、同西川)及び下水道使用条例八条の規定によれば、石部工場の使用水量はクーリングタワーからの蒸発等により、汚水量と著しく異なることが認められ、同条例八条三号の要件を充たすと認められるから、本件認定が無効であれば、石部町は同号に基づき改めて汚水量を認定し、被告会社はその認定にかかる汚水量に対応する使用量の支払義務を負うというべきであり、原告らの主張するように本件認定が無効であることから直ちに被告会社に同条一号により認定した汚水量に対応する使用量の義務があったと認めることはできないというべきである。

そうすると、本件認定が手続違背ないし内容の不合理性により無効となるかどうかを判断するまでもなく、前記原告らの主張事実により、被告会社に生じた利得及び被告西岡が石部町に生ぜしめた損害を認めることはできないから、原告らの前記主張は理由がないというべきである。

二  受益者負担金について(原告らの主張2について)

1  原告らは、石部工場の面積が、二五〇〇分の一の地図により計測すると、二〇万九九〇五平方メートルであるが、公簿によると、18万4656.3平方メートルであって、公簿面積と実測面積が著しく異なるので受益者負担規則二条但書にいう「公簿によりがたいとき」に該当し、実測面積によるべきであったにもかかわらず、被告西岡は、石部工場の面積を公簿を基準に認定し、それに従って受益者負担金を賦課したと主張する。

しかしながら、受益者負担規則二条は、原則として受益者負担金の算定基準となる土地の地積は公簿によるものとし、例外としてそれによりがたいとき又は町長が必要と認めたときは実測によることができるとしており、実測によるか否かは町長の裁量に任されている。本件において、仮に原告ら主張のとおり、石部工場の面積が二〇万九九〇五平方メートルであるとしても、右規定の趣旨が受益者負担金を迅速かつ公平に徴収することにあること、石部工場の本件土地の固定資産税の徴収も公簿に従って行われていること(証人上田、同中藪)に照らすと、被告西岡が公簿に従い18.53ヘクタールである受益者負担金を徴収したことは著しく不当とまではいえず、被告西岡には、裁量権の逸脱があったとはいえないから、原告らの右主張は採用できない。

2 受益者負担金を猶予するには、「公簿上の地目および現況とともに山林である」ことが必要であるところ(受益者負担規則一三条、別表)(乙三、四)、石部工場には、公簿上の地目は山林であるが、現況は駐車場である土地があること(証人上田、同中藪)、右駐車場部分の土地は、現在厚生施設の造成事業のため県に対し開発許可を申請中であること、開発が許可されなければ、山林に原状回復しなければならない可能性があること(以上、証人上田、同中藪及び弁論の全趣旨)が認められる。

右事実によれば、石部工場敷地内の公簿上の地目は山林であるが現況が駐車場である土地は、受益者負担規則、別表に定める要件に該当しないから、受益者負担金を猶予することはできないのであって、受益者負担金の趣旨に照らしても、右土地が現在厚生施設の造成事業のため県に対し開発許可を申請中であること、開発が許可されなければ、山林に原状回復しなければならない可能性があることは受益者負担金を猶予する理由たり得ないというべきである。

そうすると、被告会社は、右土地について受益者負担金の猶予を受けることにより不当な利得を得ていることになる。また、被告西岡は、右土地が駐車場にあって本来受益者負担金を賦課すべきものであることを知りながらそれを怠ったことが認められるから(弁論の全趣旨)、右受益者負担金相当分の損害を石部町に与えたことになる。前記第一の三(六)のとおり、右土地の面積は0.3372ヘクタールであるから、受益者負担条例四条に基づき右利得金ないし損害金を算定すると八〇万九二八〇円になる(二四〇円×三三七二平方メートル)。

なお、右利得金に対する付帯請求の始期は、被告会社が本件土地を駐車場にした時点からそれにつき本来受益者負担金を賦課されるべきものであることを知っていたこと(証人上田、弁論の全趣旨)に照らすと、本来民法七〇四条に基づき、右土地を駐車場にした時点とすべきであり、右損害金に対する付帯請求の始期は被告西岡が右駐車場の宅地化を認識しながら受益者負担金の賦課を怠った時点とすべきところ、証拠上その時期が明らかでない。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本訴において原告は平成八年一〇月一四日第五回口頭弁論期日に陳述された平成八年一〇月九日付け準備書面において右駐車場の存在を指摘しており、これに対して被告会社は、その約二ケ月後である平成八年一二月六日に右駐車場の存在を自認する準備書面を提出していることが認められ、これらの事実に照らせば、遅くとも被告会社が右準備書面を提出した時点以降の付帯請求についてはこれを認めるのが相当である。

三  結論

よって、原告らの被告らに対する請求は、主文一項の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用について民訴法六一条、六四条本文、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官神吉正則 裁判官末永雅之 裁判官後藤真孝)

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